家具木工よもやま話

直線

家具木工を学び始めた頃、最初にあたるいくつかの壁があるのですが、そのうちの一つが「直線」に対する概念というか考え方です。

家具木工を学ぶ以前までは、直線はその辺にいくらでも転がっているものだと思っていて、家の壁や床、柱や建具、冷蔵庫など家電品に至るまで直線のものだらけだと思っていました。しかし、それぞれの物体の直線と思っていた部分は極めて微妙に反っていたり、目視ではわからない範囲で凸凹していたりして、直線の物体がない事を知ります。

極端な言い方をすると世にある物体に完全な直線は存在しないと言っていいと思います。木や鉄、プラスティックやそれ以外のあゆる物は成型された以後に収縮、膨張、反りなどで微妙に変形しますし、そもそもその加工成型に用いられた「型」や「加工道具」が既に完全な直線では無いわけですから、真の直線の物体と言うのは存在しないということになります。しいて言うと大工さんがつかう直線確認用の下げ振りや水糸といった道具が表す直線や、同じく建築現場などで使用されるレーザーを使ったレベル調整器が表す照射線などがかなりの直線になりますが、双方とも物体ではありません。

話がややこしくなってきましたが、直線物体の存在しないこの世に出来る限り直線に近い物体を作る事ができる道具が「鉋(かんな)」です。鉋の構造や使い方については、書籍を含めいろんなところに書かれていますのでここでは割愛しますが、何故「鉋」が直線を作る事ができるかを極めて簡単に説明すると、次のようになります。

仕入れた荒材

鉋の形状を誇張して描くと、左図の様に刃から刃の後方にかけて弧状に仕立てています。

仕入れた荒材

図の↔間、刃の直下(刃口)から鉋本体の一番後ろ側(台尻)をつなぐ二点の空間に見えない真の直線があります。この「見えない真の直線」に限りなく直線に加工できるとても考えられた構造が隠されていているわけです。鉋で木材を削りますと、2点間の見えない直線より上の弧にはみ出している木材の山の部分を鉋の刃がカットしていき、木材の表面が2点間の見えない直線と同じ線になるというわけです。

鉋と言う道具は非常に奥が深くこの解説はかなり乱暴なのですが、今回は直線に対する考え方ですのでお許しください。

家具木工を学んでいて、最初にあたる壁がこの直線に対する考え方なのですが、その直線を作り出す鉋という道具の構造を学ぶことによって、この世に真の直線が存在しないことと、目に見えない真の直線により限りなく真の直線に近い加工を成し遂げる道具があることを知ります。