家具木工よもやま話
道具
家具作りに必要な最低限の道具。「最低限」としたのは事業的な目的からは離れ、単に一つの家具を形作る為だけに必要な道具といった意味です。しかし、日曜大工やDIYの延長線上ではなく、精度の高い加工を前提とした本格的な木工家具を作る為の道具です。
家具用の広葉樹木材は北米などの現地製材所で加工された荒材(表面はガサガサしていて、反りやひねりがある)から、表面がツルツルに加工された完全な直方体の部材(以後、基本加工材)へと自ら加工しなければならないのでが、その為に必要な道具が手押し鉋と自動鉋という機械です。
それぞれの機械についての説明は割愛しますが、この2台は1セットで必要です。そんなものを用意しなくてもホームセンターや材木店で加工された木材が売っていると思われるかもしれませんが、ホームセンターや材木店に置かれている木材はほぼ針葉樹で家具作りには向きません。また銘木店などに国産広葉樹がありますが、こちらは一枚板などとして使われる場合が多く加工用には向きません。加工を前提とした家具を作るのであれば安定供給されている輸入材を自ら加工することが必須となりますしその為に必要な道具が手押し鉋と自動鉋になります。
直方体に加工された基本加工材を使用する事が家具木工においてはとても重要です。基本加工された部材さえあれば、シラガキや毛引きと言った墨付け道具を用いて正確なカットラインを記すと同時に、その後はノコやノミ、カンナその他の補助的な手道具だけで家具を作る事はできます。幣工房で行っている木工教室でも、私が加工した基本加工材を生徒さんに提供しそこからほぼ機械は使用することなく、手道具と生徒さんの「手」で家具を作っています。
ここまで書いておいてですが、手押し鉋や自動鉋などの機械を使用せず、昔の職人さんの様に手道具だけを用いて基本加工を行うことは技術的には可能です。しかし、作業全体の時間や仕事エネルギー、以後の作業精度を考慮すると、この2台の機械だけは最低限必要だと思います。
基本加工後に必要な道具ですが、墨付け道具として鉛筆、シラガキ、毛引き、指金、直角定規などが必要です。以後部材の加工に両刃ノコ、胴付きノコ、ノミ、各所加工にカンナなどが必要です。ここに書いた道具はそれぞれ専門的な使い方があって誰かに教えてもらうことが前提となる道具ですが、正確な加工を進めていくために必要な道具です。
基本加工材を作る事ができれば後の加工に据え置き型の機械は必要無く、全て手道具だけで行えます。各種冶具やクランプ、小型の電動工具などあると便利な道具は無数にありますのでそれらを否定する訳ではありません。あくまでも本格家具を作る為必要な最低限の道具という内容でした。
余談ですがネット上のアマチュア向けの木工ツールサイトには、手道具から電動工具までこれでもかと言うくらいの道具が販売されていますが、基本加工材を用いる事が前提となる道具が多く、それらの道具を購入された方は果たしてどれだけ使いこなせているのだろう?と疑問に思います。
また、これは我々プロにも言える話なのですが、設備投資を進めればクウォリティーの高い家具をスピーディーに作れるかの錯覚に陥る事があります。しかし、何をどのように何の目的で作るかを見誤ると、道具に振り回され、その道具があるからそれ用の何かを作らなければいけないような、道具に支配された作業環境を作ることにもなりかねません。逆に言えることはノミ・ノコ・カンナなど日本古来の手道具は汎用性が高く、自由に物作りを楽しむよき相棒になるのだと思います。